音楽療法って?

音楽を利用した療法です。

音楽療法には、文字通り音楽を使って病気や障がいを持っている子供や高齢者などを治癒するという目的があります。 誰にでも音楽を聴いて自然に身体が動いたとか心を揺り動かされた、或いは元気が出た、すっきりしたなどという経験があると思います。

このように音楽は人の心や身体に影響を与えます。そんな音楽の特性を利用して治療をしていくのが音楽療法士です。 ですから、音楽療法士には音楽の技術の他に医学・リハビリテーション・心理等の知識も大きく関わってきます。

音楽を利用するメリットがあります。

音楽療法は扱っているものが音楽であるということで、受ける側は楽しみながら効果を期待できるというメリットがあります。 また、音楽の持つ多様性によって、様々な人々に利用して頂けるということも特徴として上げられます。

日本は欧米などに比べてまだ実践が少ないと言われていますが、障がい児訓練施設・精神科・高齢者施設等、いろいろな場所で行われて効果を上げ、そのニーズも増えつつあります。

MAPでは、音・音楽を通じて全ての人々に、リラクセーションと心からの喜びをもたらし、効果的刺激や感覚の調整機能としての活動、つまり、音楽療法を積極的に推進しています。



音楽は療法になりうるか

宮澤賢治の世界に見る事ができます。

『セロ弾きのゴーシュ』の主人公は,オーケストラ団員。ゴーシュは,いつも指揮者に叱られてばかり。毎晩,毎晩,練習をしていた。

ある晩のこと,野ねずみの母さんが「どうかわたしの子供を治してください」と言ってやって来る。ゴーシュが,私は音楽家であって,医者ではないからと言うと,「いつも,仲間はあなたの演奏する音で病気が治っているのです。私の子供をセロの中に入れて,治して欲しいのです。

・・・・・・そして親子は元気に帰って行きました」とあるように,チェロから伝わる音の振動と,心優しいゴーシュの心こもった音楽が病気を治すというストーリーです。

童話の中に宮澤賢治の音楽に対する思いを感じることができます.治癒と音楽はここでも切り離せない存在として語られています。


神戸の震災復興時には多くのミュージシャンが神戸に入り,癒しと勇気の空間を作ったと報道されました.肉親を失い住居を失い,これからの生活に不安を覚え,先の見通しの立ちにくい人々に寄り添う音楽家達の活動は,何日も継続されました。

疲れきってしまった精神を癒し,いつになっても消え去ることのない心の傷を和らげ,苦しみを抱きかかえたまま生き続けなければならない人々の,心理療法としての音楽がクローズアップされてもいました。音楽の存在は大きいと感じます.

このように,音楽療法の世界を作っていくのは,教育者,医師,音楽家,心理学者と様々であり,音楽が療法的に使われる『場』は教育現場,医療現場,福祉現場,地域社会と無限に存在すると考えられます。

留意することがあります。

音楽があると場が盛り上がります。そして参加された方は楽しそうです。それに目を向けすぎると、音楽療法セッションで参加者に無理強いをすることになりかねません。

集団になじめない方もいますので、無理強いは避けるべきです。そして、場の雰囲気を高めることに評価をおくのではなく、安心して参加できる場作りに注力すべきです。



音楽療法の進め方

♪音楽療法推進の考え方

音楽療法は、「おとと音楽」を利用した「療法」です。次の目的があると考えています。

○今を大切にするための問題を解決する。
○将来に向けてのギャップを埋める。

これを達成するためには、人間の機能の発達を支援することが重要になります。具体的には次の目標達成が求められます。

○身体的(生理的)側面の発達・回復
○心理的(情緒、認知、感情など)側面の醸成・安定
○社会との関わり方(コミュニケーションなど)の育成

これらの目的・目標を達成するためには、適切な方法を採る必要があります。誰に、何を、どんな目標で、どのように、どんな期間で、どんな予算でということを詰めておくことが肝要です。

音楽療法の対象者や状況には極めて多様性がありますので、画一化した手法では個別対応が難しい面があります。

しかし目的を達成するためには、その目的に沿った推進方法の手順が必要です。場当たり的対応では達成できません。

♪音楽療法のねらい(介護・疾病予防)

加齢と共に認知障碍が出てくるのは避けられない事実です。また身体的な衰えも防げません。
適切なきっかけを与えることで、衰えにより患者・利用者の抱える問題点を改善(*1)するための、内在する力を湧き出させることができます。音楽のリズムは直接生命の脈動に働きかけて、心身の活性化を助長します。
(*1)老年性うつ病症状の軽減・身体や心理改善、声量減の防止・失語症・嚥下障害軽減、人間関係の円滑化


♪音楽療法実践の手順

以下に「介護・疾病予防プログラム」の具体的手順を述べます。

曲目は一例です。クラシック、ポピュラー、流行歌、演歌、唱歌、童謡、ジャズ、ラテン、歌曲、民謡といった様々な楽曲を、目的に応じて選曲します。そして、メロディの跳躍、テンポ、音の厚み、リズムの種類、音色などを工夫して使用します。

これまでの選曲の考え方は、高齢者ならば歌いやすさ、馴染みやすさを配慮して、時代的には昭和40年ころまでの楽曲が多く使用されていました。具体的な曲名としては、青い山脈、丘を越えて、お富さん、などです。テンポは♪=70~98位で、被治療者に合わせたキーを選定しており、テンポやリズムの複雑な楽曲は使っていませんでした。

しかし新しい曲「It’s a Small World」、「TSUNAMI」など、多くの人が動こうとする意識が感じられるし、ラテン、ボサノヴァ等も好まれているようです。従来は高齢者には難しいと思われていた楽曲が受け入れられ、効果が上がる場面が見受けられます。

これらの曲の間には、メロディーの跳躍の度数の違いが見られます。従来は三度の跳躍が多いのに比べて、現代は五度が多くなっています。また即興の演奏では五度の跳躍がさらに増えています。度数の違いによりどのような感じ方の違いが出てくるかというと、三度は歌うに適しており、五度は発散するのに適してきるということが言えます。



神経学的音楽療法(NMT)

NMTはコロラド州立大学のタウト博士が提唱した、機能的・科学的根拠に基づいた音楽療法の方法です。以下の内容を含んでいます。

(1)感覚運動領域

● リズムによる聴覚刺激法(Rhythmic Auditory Stimulation: RAS)

● パターン化した感覚の強化法(Patterned Sensory Enhancement: PSE)

● 治療的な楽器演奏法(Therapeutic Instrumental Musical Performance: TIMP)

(2)発話・言語領域

● メロディック・イントネーション・セラピー(Melodic Intonation Therapy: MIT)

● 音楽による発話刺激法(Musical Stimulation: MUSTIM)

● リズムによる発話合図法(Rhythmic Speech Cueing: RSC)

● 声の抑揚訓練法(Vocal Intonation Therapy: VIT)

● 治療的な歌唱法(Therapeutic Singing: TS)

● 口頭運動による呼吸訓練法(Oral Motor Respiratory Exercise: OMREX)

● 音楽による発育を目的とした発話/言語訓練法
       (Developmental Speech & Language training throught Music: DSLM)

● 音楽を利用したシンボリック・コミュニケーション訓練法
       (Symbolic Communication through Music: SYCOM)

(3)認知領域

● 音楽による感覚見当識訓練法(Musical Sensory Orientation Training: MSOT)

● 音楽による半側空間無視に対する訓練法(Musical Neglect Training: MNT)

● 聴覚認識訓練法(Auditroy Perception Training: APT)

● 音楽による注意コントロール訓練法(Musical Attention Control Training: MACT)

● 音楽による記憶訓練法(Musical Mnemonic Training: MMT)

● 音楽による統合的気分・記憶訓練法(Associated Mood & Memory Training: AMMT)

● 音楽による遂行機能訓練法(Musical Executive Function Training: MEFT)

● 音楽による心理療法とカウンセリング法(Musical Psychotherapy & Counseling: MPC)


NMTを実践するためには、コロラド州立大学のセミナーを受講しアカデミー会員になる必要があります。多くのMAP会員が受講済みです。またフェローにも認定されています。 「あきは」と「シャンテール」ではNMTを取り入れたケアを実践しています。


 日本神経学的音楽療法勉強会のホームページもご覧下さい。

http://nmt.iinaa.net//